読んでいる間、と読後ちょっと切なくて泣きそうになった。

収録作品として
『リンゴの顔』
『黄色い目の魚』
『からっぽのバスタブ』
『サブキーパー』
『彼のモチーフ』
『ファザー。コンプレックス』
『オセロ・ゲーム』
『七里ヶ浜』

作品中「黄色い目の魚」だけが書かれた年代が違うし、若干テイストも違う。でも、主人公が中学生の時のイラつき、反抗ぶりがくっきりと浮かび上がり、後の高校生時代と上手く繋がっているので問題なく読める。

主人公の「村田みのり」は画家でありイラストレーターでもある叔父の「とおるちゃん」によくなついている。
それは自分の家では得られない解放感と安らぎを感じるから。一方、叔父もそんなみのりをモデルとまでは行かなくてもデフォルメした状態で絵で表している。
中学時代は言動のきつさからクラスメートから浮きまくりでかなり傷ついたことも経験したけれど、高校になっては「ちょっと変わった雰囲気の人」ぐらいで済んでいる。
で、一遍目の「リンゴの顔」では名前が記されなかった「木島」君と知り合う。
似顔絵が上手な子、だけが段々「イラつくほどに強烈な印象を持たせる絵を書く子」とみのりの中で木島君の存在が変わっていく。
初めはただの「モチーフ」と「絵を上手に書く人」だけの「恋愛感情全く抜き」の間柄から段々お互いに「どこに居ても、気になる。愛とかそんなんとは別の感情で」が、どんどん変わっていく描写が、引き込まれるほど上手い!!
なぜ、この子たちがお互いを好きになっていくのかが、手に取るようにというか、違う言い方をしたら「人ってこんな風に人を好きになっていく過程があるんだなあ…」と改めて教えてもらったような。

「顔を見て即好きになった」とかそんな一瞬で好きになるみたいなインスタント恋愛じゃなくて。

で、お互いにやっと「お前のこと好き」「私も」って告白をしたその数分後に「ある疑問」を口にした途端に出来たばっかりのカップルは決裂してしまう。
その描写がなんか自分の過去とダブって涙が出そうになった。
聞かない方がいいのに、でもどうしても自分の中のもやもやを解消したくて聞かずにいられない質問。
その答えによって自分も相手も傷つくことが分かっているのに。答えることが誠実だと木島君は真実を口にするけれど、やっぱりそれは女側には耐えられない事実だし。

高校生が主人公なんだけど、この描写の部分だけは20代でも30代でもそして40代でさえも胸が締め付けられる部分じゃないかな?経験したことのある人間には。

でも、木島君はある意味タフで若いと思えたのが
お互いに好きだって確かめ合って、さあ、これからだって時に、底なしの落とし穴に転げ落ちちまった。(中略)俺は好きな女の子の為に嘘をつく度量もねえんだな。一度死ね。(中略)村田には嘘つけないんだよ。だから嘘をつかなきゃならないようなことを絶対にしないことだ。これからは。
これからがーーあるのかな?
あるさ。
俺はあきらめない。どんなことがあっても、あきらめない。
どれだけ時間がかかってもいい。
どれだけ冷たくされても、怒られても嫌がられてもいい。
俺はあきらめない。絶対にあきらめない。


嫌いな男にこんなセリフ言われたら「お前はストーカーか?」と言いそうだけど、お互いに好きな相手にこんな風に思われるっていうこの部分、いいな~うらやましいな~と。

で、ラストがじ~~んときたんですよ。
「俺、ずっと描きたいから、村田のこと。」
俺は言った。
「できたら、一生描きたい。おばさんになって、ばあさんになるまで描きたい。」
「すごい」と村田は言った。(中略)
「いい?」俺は聞いた。
「描いてもいい?」
今度こそ、本当に村田は笑った。そして、言った。
「じいさんになっても、いい絵を描くんだよ」


すんごい、プロポーズだと思うし。

二人の話はこれでおわっちゃうんだけど、通ちゃんと似鳥ちゃんの関係は?とか脇役の人たちの関係ももっと知りたいな、続編をぜひ、って感じの本でした。

私は絵を描くのが超ド下手なので、この本で絵を描く描写の時に「モデルになることは自分の全てが画家にみぬかれることだから、居心地が悪い」という部分がありました。
そんな目でモチーフを見て描いたことがなかったし、自分にとって「いい絵だな」「好きな絵だな」とかあんまり感じることがなかったので、これからはもう少し絵の見方を変えて見たいと思った。
ただ、写すだけでしたもん。
学校の教科ってどうしてこう、社会に出たら役に立たないことばかり教えるんだろう。大人になってやっと「ああ、これはこうやって楽しむものだったんだ」って。
ダンス(ディスコ)しかり。音楽(カラオケ)しかり。
美術(イラスト)しかり。
その「極意」をちゃんと教えてくれる人に出会うか、出会わないかで人生のモノの見方って変わるのにね。

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