短編集
男の視線から書いてみた、とあとがきにあり。
その為、「夫から見た妻」「彼から見た彼女」的な視線と言うか、
どれをとっても「結局、男って女のことぜ~~~んぜん、わかってない」
と言う事に気が付く。
特に夫は長年連れ添った妻の事なんかまったく理解していない。
というか、一人の人間として見ていなくて「ああ、どこも一緒ね…」と
読んでいて諦めと言うか、悲しくなるというか…


例えば一作目の『口紅』
妻が寝込むとどういうわけか腹が立った。
もちろん妻も人間なのだから、風邪も引けば体調が思わしくない時もあるだろう。それがわかっていても、布団に潜り込んでいたり、熱っぽい顔をしていると、イライラして邪険な態度に出てしまう。そんな時は、特に予定が無くても、遅くまで帰らないようにしていた。

しかも、この男は30代の女と不倫中で、病床(おそらく癌)の妻がぽつりと
「口紅が欲しい…」と言ったことに対して「買ってきて」と不倫相手に頼む。

どんだけ最低な夫や…呆   

不倫相手もあきれつつきれいな一色を買って来てくれるものの、男の会社がやばくなってきているのを機に「別れましょう」と。えらい!!

健康である、と言うの妻として大事な役目ではないか。
夫のいない昼間、ゆっくり寝ていられるのだから。
その間に、治すべきだ。
とにかく、夫である自分が家に居る間は、寝込むことは許さない。

不倫相手が
あなたの世代までね、そういう事を平気で言えるのは。
大体そういう男に限って、自分がちょっとでも熱を出したら大騒ぎするんだから。


全く、同感である。
ちなみにこの作品は1998年発表なのである。
今時の「イクメン」世代には確かに値しない年齢かも。

そして病室で妻は夫にこう語りかける。
「ねえ、あなた。少しだけ言わせて。」
「結婚して20年になるわ。(中略)
でもね、あなたを思い浮かべようとすると、頭に浮かぶのは後姿ばかり。
私に向いているあなたの顔が思い出せないのよ。

わかっているんだけど…こんなことを今更言うのはちょっと恥ずかしいんだけど…時には私を見て欲しかった。」

「俺と結婚したことを後悔しているのか。」
「そうじゃないわ。ただ。
ただ、淋しかっただけ」


こんな感想を持たずにお互いの一生を終えられる夫婦って何組あるんだろう?

ところで昨夜旦那が私の髪の毛を見て「カラーしたの一か月前?」と聞きました。
「4か月になるんだけど…」
ま、夫の妻に対する関心なんぞ、こんなもんですよ。

『バス・ストップ』
これもなかなか印象的で、不倫をしている夫を初めは責めていた妻が何も言わなくなったのをいいことに不倫継続中。
結婚して13年たった。
13年前、木島は確かに杏子に惚れていた。惚れていたから結婚した。
(中略)
早い話、手を伸ばせばすぐ届く場所にいる杏子に欲望を感じなくなった。

木島は足りない物を外で求めた。
杏子に対してもう二度と蘇ることの無い甘やかで刺激的なものだ。
それは自分が男として存在する不可欠なものである。


そしてある日、帰宅すると妻と娘は出て行っていた。
弁護士が訪問し「離婚して欲しい」と。今までの浮気の証拠を妻がしっかりと
握っていてそれを理由に。

しかし、それならそれでいい。
杏子の代わりなどいくらでもいる。
奈美もこれで結婚できると喜んでいる。
杏子より一回り以上も若い女だ。その波ともう一度人生をやり直せる。
それを思えばむしろありがたいぐらいだ。


と、喜んでいたのもつかの間専業主婦になった奈美は主婦としての役目を全く果たさない。
家事は奈美にとってはどうにでも価値を見いだせない仕事なのだった。いや、多分、世の中の多くの主婦がそうなのだろう。
単調な繰り返しにうんざりしている。男たちもそれを理解し、文句も言わず従っている。それでうまく成り立っているのだ。
きっとかつての自分の家が完璧すぎたのだろう。杏子がそうしてきた。
その完璧さにすっかり慣れて、どうにも今の生活になじめない。


そしてラスト
「朝飯位食わせても罰は当たらないだろう」
「あなたって、前の奥さんいよほど甘やかされてきたのね。
過保護に育った息子と同じ。そんなのじゃ、老後、苦労するわよ。」


あの一年、杏子は妻として限りなく尽くした。
木島は、夫の気持ちを取り戻したい一心の事だと思っていた。
でも、違った。
違うという事に、ようやく気付いた。
杏子は一年をかけて、木島をどうしようもなく手のかかる厄介な夫に仕上げたのだ。それが杏子の復讐だったのだ。


じゃ、私もこれから時間をかけて「どうしようもない夫」になってもらうべく
尽くしに尽くしてあげましょう。

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