短編構成
『とちり蕎麦』『縁(よすが)』『翔ぶ梅 香風昔語り』

「とちり…」は濱次の人となりをさり気に表現することにより役者の濱次フアンを増やす伏線的な位置的作品とも言えるし、この時代背景によくある「人情話」として楽しむこともできる。

「縁」は有名どころにヘッドハンティングされる話。
微妙に幽霊の「香風」さんの執着が怖い。笑
けれど後輩にまで慕われる濱次の人となりを説明するも、本人はいたってぼんやりおっとりぶっちゃけ「な~~んにも考えちゃいねえ」風情が「何を言われようともじっと耐えるお人」と崇拝の目で見られるというのが何とも笑える。
実は読みながら「なんできちんと言葉にして釈明しないんだろう…」とイラッとしていたわけで。笑 まあ、それが「余計なことはめんどくさいし、よくあることだからま、いっか 」を知らしめる布石でもあるわけで。

この「言っても仕方ないし」というより「めんどくさいから黙って聞いている振りしてりゃ、嵐は過ぎさる」的考え。長男に似ている。
「はい」とすんなり答えるので「ああ、聞いているな。わかったな」と言ったこちらは「安心」するのだが実際は「聞いちゃいねえ」。怒
極めつけはブラックに名高いファミレスでバイトして店長、副店長にそれはそれはきびし~~い毒の混じった叱責を受け、偏差値の高い大学に通っている同期の子たちは早々に「あんな物言いに耐えれない…」と逃げ出したのにいまだに続いているのは「店長も副店長もどんな言い方をしても絶対に怪我をすることは無い 。それに比べてお父さんや、顧問の指導は怪我をした。それに比べたらぜ~~~~ンぜん怖くないし、何とも思わない」と。
感情、思考の回路がすこ~~し違う方向に行ってしまったようで…涙
指導と言う名の元の体罰、暴力を受けることが「当たり前の子」にとって「ただの言葉の暴力」なんてへの河童。大人しく聞いている振りすりゃそれでよし!って…なんかなあ…
濱次ののらりくらり感、役への執着の無さ、が妙に長男と重なる。
後輩にレギュラーの座を取られたら「悔しい」とも思わず、「なにくそ!」と
人の2倍3倍の練習をして見返す!と言った気概もなく。
ただ「あ、そう。仕方ないね」と流してしまうその執着心の無さ、って一見いいように聞こえるけどめちゃめちゃ「ふがいない」姿にしか見えないんですが。

最後の「翔ぶ梅」でもこの脚本の元を書いたお侍にしても
「家名大事のお武家さまが、家よりも惚れた女が大事だと、
国許に残した父母なぞ、知った事かと言う。
開き直りでもやせ我慢でもない、何の痛痒もためらいもない、
澄んだ目で。女は女で身をなげうって恋しい男と家を守る術が、
自害ではなく一人江戸へ逃げることだ、ときた。」
仙雀が「奇天烈だ」と感じ、正直腰が引けたあれこれを、
香風は「面白い」と思っていたのだ。

確かにこれを読んでいる時お侍の言動ってまさに「平成の子」ぽいな、と。
自分が出奔して親に迷惑をかけることなんかちっとも考えない、超自己満足自己中心の何物でもない。まあ、実際にはこんな人いなかったと思うんだけど、この時代に。人に迷惑をかけることになるのなら腹を切ってお詫びする、それが常識だったと思うし。ある意味、超斬新なカップルだったからこそ天才の家風が脚本を書いてくれと頼みきっと筋だけで舞台を作り上げたんだろうなあ…と。
とはいえ、この本を読んで「歌舞伎を見てみたいな~」と思う人は結構多いのではないかと思う。

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