『さよならドビュッシー』と同時受賞した作品。
審査員が「明と暗」と評したようにまさに正反対の作品を同一作者が書いて同時受賞。
共通点は「ピアノ」ぐらいか。
青春音楽ミステリーと残酷な猟奇殺人に刑法第三十九条が盛り込まれサイコサスペンスの要素もありとてんこ盛り状態。
正直、第一の殺人の気持ち悪さ=女性の全裸死体がマンション13階から吊り下げられ、頬を貫通してフックで吊り下げられているし。何よりも「それ」がぶら下がっていても廃墟に近いマンションでは住民が気が付かずに3日過ぎている…
あまりの都会の無関心さを象徴しているようで不気味。
第二の殺人は行方不明になった老人が車のスクラップ工場からミンチとなって見つかる。さらに新聞の写真に血が滴ったものが掲載されパニックとなる。
第三の殺人は小学生が殺されご丁寧に内臓から一切合財全部摘出され死体の横に並べられていたという…
もうここまで来たらミステリーと言うよりパニック小説か?てな感じで不気味さ倍増。群集心理も狂気をはらんでいつ破裂するかわからない風船のような描写に気の重さと同時にページをドンドンめくってしまう面白さがある。

まあ、どんでん返しもばっちりあるけど何よりもこういった
非常事態に露出する人間特に日本人に特化されるのかもしれないけど正義の名のもとに魔女狩りを平気でやってしまうこの怖さ。自分がいつ魔女狩りをする側に回るのかまたは
される側に回るのかそれはイジメ同様に誰もわからない。
いじめの構造って案外今に始まったものじゃないのかもね。

P342

この世には完全な健常者もいなければ完全な異常者もいない。
どんな人間も心の奥に狂気を飼っている。
例外はいない。
ところがその奥底に隠れている狂気が何かの弾みで
ひょいと表に出る時がある。
そして、それを見た周りの人間がこいつは異常者だとレッテルを貼って自分たちから一刻も早く遠ざけようとする。
どうして、そんなに大騒ぎするのか。
答えは簡単、自分もそうなる可能性があることを知っているからだ。だから人はその狂気を飼い馴らそうとして努力する。自分を善なる者に踏み留めようとして闘う。


あなたは人を殺したいと思ったことはありませんか?
私はあります。それも残酷極まりない形でほふりたいと。
けれどその昏い願望を日常生活において飼い馴らし、
表に出ないように闘っています。
あなたの隣にいる「一見まとも」「一見普通」の人が
ある日突然昏きものに負けて行動に移すかもしれない。
それは明日、あさって自分の身に起こっても不思議ではない
。だって、誰もが昏きものを飼っているのだから…

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