いきなり「弁護士」が殺人犯かよ!!!しかも冒頭で暴露しているし…
更にその弁護士はいわゆる「淳君事件」の犯人のサカキバラを彷彿させる
人物設定ときたら…汗
弁護士の名前は「御子柴礼司(みこしばれいじ)」。
なんかとって付けたような名前だなあ…と違和感がありますが理由は本文で説明されてます。(けれど一般に中山作品の登場人物の名前って一般的な名前ではなく、めったに無い名前が多き気がする)

本作でも埼玉県警捜査一課の古手川和也が登場。しかしどちらかと言えば本作では彼の鬼上司渡瀬の猟犬振りがクローズアップ。
中山作品の要素である「音楽(ピアノ)」「障害者」「ドン返し」も健在。
それどころか『カエル男』でキーパーソンになった人の過去も披露。
さりげなく繋がっているんですね。中山作品は。
なので彼の作品を読む場合は出版順に追うのが正解かと。
出なければ今回のように「にやり」というか、ああここに繋がるんだ~という
仕掛けに気が付かないと思う。

さて、本作では「裁判員制度」に噛みついている。笑
以前であれば検察もこんな見え透いた手法は採らなかったのだが
素人の裁判員相手にはかなり有効とも言える。
どれだけ冷静であろうと努めても職業的に人を裁いたことのない人間には論理より感情が先立つ。
裁判員裁判制度の肝には裁定に市民感覚を反映させることだが、感覚はどこまで行っても感覚でしかない。
そして感覚とは己の立ち位置や時間の経過でいくらでも変容する胡乱なもので、
法の素人がそんな尺度で罪を推し量ることが果たして妥当なのかどうか、
未だに明快な回答もないまま制度だけは走り続ける。
憲法上の根拠を欠きながら国民に義務を課したどさくさまぎれの制度が、
司法判断を井戸端会議レベルまで落とし始めている。


「臓器移植」に続いて「裁判員裁判制度」。
こうやって「制度のあやふやさ」を指摘してくれるのでこの人の本は面白い。
そして何より一般には「弱者」と言われ「守るべきもの」「守られて当然」と
思われている「障害者」にも牙をむく。
「表情も変えられない。喋れない。片手しか動かせない。
人はこういう人間を絶対に疑わない。心は五歳児のように純粋で、世の中の開くに一点も染まっていないと思い込む。
障害者は誰もかれも純粋で、神様に一番近い存在だと思い込む。
バカだよね。それも一種の差別だという事に気づかない。気づかない振りをしている。


そして興味深かったのが元少年院の教官をしていた男との会話。
「刑事を三十年近くもやっていると、罪を犯すものとそうでない者との違いがうすぼんやりと見えてくるものでしてね。
性格じゃない。育った環境でもない。収入の多寡でも頭の良し悪しでもない。
言ってみれば…魂の形だ。」
「魂の形。ふふん、見かけの割には青臭い事を言う」
「魂の形さえ歪でなければ、そいつはどんな環境に置かれても、どんな激情に駆られても人のままでいられる。決してケダモノになることはない。」


とまあ、結構私的には面白い表現が見受けられるのに内容的、トリック的には
「ドン返し」がお約束の為無理やり感があって興ざめ。
この人の作品は冒頭は結構興味を引いて引き込まれるのに、ラストがいっつも
「残念だ…」感が漂う。

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