表紙のイラストのほのぼのさに騙されてはいけません。本作もかなり人間の心の闇と言うか結構えぐいです。(発行順としては『ソロモンの偽証』の後に相当)

その行為が一人の無実の男の命を左右することであっても平気でやってしまう男、
実の父を殺す息子、兄が実の弟を殺そうとする…
本当に自分の心のままに行った行為なのか、他人にいいように操られてやった行為なのか。一度自分の心に巣食った闇に囚われたらもう逃げることはできず、後は堕ちていくだけ。
この人の時代小説はどこか「救い」があって「ほのぼの」が売りだった気がするのですが、『ソロモン』とか現代もので闇ばっかり扱ってきたせいなのかこれも時代物にしたら「暗いなあ…」と言う感想。
しかも、なかなか話が進みださなくて第一話なんて退屈、退屈…
何回も寝てしまいましたとも。
へたすりゃ、これも「無駄に長い」と言う評価になりそうなところを、だんだんと筆が乗ってきたのか後半は一気読み。
体半分あざがある女性と「幽霊」さんの恋愛ムードが若干「救い」になっていますが。

まあ、時代物の姿を取っているけど、現実の世界では娘が祖母と実母を殺したり、
高校生が友人を殺害したり、そしていわゆる「いい大人」が意味不明に少女を惨殺したりと(もしかしてやっぱりそそのかされたのかもしれないが…)形は違っても似たことをしていることには変わりない。
人の心の弱さと言うものと、その一方で人を信じるという強さと。

本作では「字」と言うものに重きを置いている。
P339
「文は人なりと、いいます。
私はその「文」は、文章の事ばかりをさしているのではないと思うのです。
その人が綴る文字にも、人柄や心模様が表れる。文字も人なり、です。


「サカキバラ」の文字が一目で「子供の文字」とわかるように、ぜひ某少女惨殺被疑者にも字を書いてもらってこやつの心が一体どんなものか見てみたいもんです。
ちなみの私は超悪筆でその時、その時によって字体が変わり、筆記用具によっても字が変わります。そんな一定しない不安定な文字でも「筆跡鑑定」できるのか知りたいところ。
まあ、「心が安定していない」ってことは鑑定しないでもわかりますが。

p430
人は目でものを見る。だが、見たものをとどめるのは心だ。
人が生きるということは、目で見たものを心に留めてゆくことの積み重ねであり、
心もそれによって育っていく。
心が、ものを見ることに長けていく。
目はものを見るだけだが、心は見たものを解釈する。
その解釈が、時には目で見るものと食い違うことだって出てくるのだ。

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